異人乃戀

 鷹宗は志瑯を守るように、少し前に出た。

「いくらどんなやつだろうと救世主を人質にとるのは……許される事じゃないだろ」

 志瑯に目で下がれと言われた鷹宗は湖阿を一瞥すると、一本後ろへ下がった。

「要求は何だ」

 志瑯が発した透き通り、凛とした声。訪問者は短刀を落とすと、自身も地に降り、湖阿を解放した。

 解放された湖阿は、呆然と地面を見つめていた。

 訪問者は志瑯を連れて来いと言ったが、連れて来たら湖阿を解放するとは言わなかった。それに、敵ならば志瑯が来ただけで救世主を解放するだろうか?

「……さすが、王たる器を持つ資格を得た人だ」

 訪問者は地に片膝をつけると深く頭を垂れた。

「オレは朱雀の長の嫡子、伍雀珮護(ごさいはいご)。今日は見極めに参りました」
「朱雀は白虎についたんだろう、何を見極める?」

 志瑯の問いに、珮護は顔を上げると真っ直ぐ志瑯の目を見据えた。

「皆が白虎についたわけではないです。オレの様に白虎のやり方をよく思っていない朱雀の民だっている」
「ということは……あなたはわたくし達の味方ですか?」
「もちろん。でも、もし救世主を見捨てたらオレは救世主を……」

 珮護が苦笑して言った。殺すのか連れ去るのどちらか。その時の状況によってどちらかを実行する決意を持ってきたのだ。
 どちらにしても湖阿にとってはよくない。殺された方がまだましだろう。
 連れていかれれば、白虎族に引き渡される。もしかしたら青龍族だけの救世主ではないと気付かれてしまうかもしれない。

 いくら夜杜に印が出ないようにしてもらったとはいえ、恐ろしい白虎族に捕まれば、無傷なままではいられず、全ての族の印が出てしまうだろう。
 恐怖と痛みが湖阿の全身を襲えば、出るのは安易だ。白虎族ならば、死ぬぎりぎりまで人を痛め付ける。

 救世主を使って青龍族をおびき寄せ、志瑯を手に掛けるまでこの国は完全に白虎族の支配下ではない。
 志瑯が来るまでは湖阿を殺しはしないが、救世主としての役目、子を産めない身体にしてしまうだろう。

「思った通りだった。青龍族長には心がある」

 珮護は人懐っこい笑みを浮かべた。こんな笑みを浮かべられると、さっきの事を責める気にもなれない。

「湖阿様!」

 咲蓮や鷹成がため息をついていると、咲蘭が叫んだ。

「どうした」
「湖阿様の様子が……」

 見ると、湖阿が自身の身体を抱き、震えていた。



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