異人乃戀

 志瑯は背を向けたまま、手を強く握った。

「……そなたは私の心の在処であり、護ることがもう一つの存在意義となる」

 まだ出会って数日だが、志瑯にとって湖阿の存在は大きい。そして、一度失いかけた命を救った湖阿に対して自身も護っていくべきだと考えていた。

 湖阿は存在意義という言葉に揺れていた。

 断るのは存在を否定するということになる。そんなことは出来ない。
 志瑯の身の安全も大切だが、湖阿が一番心配し、大切にしなければいけないと思っているのは志瑯の心。

 もし拒絶すれば志瑯はもしかしたら心を完全に閉ざしてしまうかもしれな
い。

「……ありがと、志瑯。志瑯って強そうだし、安心して守ってもらえるわ」

 志瑯は振り向くと、湖阿の顔を見つめた。妙な雰囲気に湖阿は体が硬直した。
 雰囲気に流されてはいけないと良い言葉を探そうとするのだが、見つからない。それどころか、思考回路が麻痺してきたのか何も考えられない。
 硬派な志瑯が何かしてくるとは思えないが、もしかしたらということもあ
る。

「し、志瑯」
「湖阿ー!!」

 戸を勢いよく開く音と声に、湖阿は目を見開いて部屋に入ってきた人物を見た。

「なっ!また近いぞ距離が!」

 鷹宗は志瑯と湖阿を引き剥がすように間に入ると、湖阿を見た。

「……何よ」
「別に。珮護!こいつ頼んだ」

 鷹宗は志瑯に何かを告げると、志瑯と共に部屋を出た。

「珮護?」

 湖阿が廊下を覗くと珮護が立っていた。一体いつから居たのだろう?

「湖阿、入っていい?」
「うん、いいけど」

 珮護は控え目に言うと、部屋に入った。明らかに態度がおかしい。

「ねぇ、何か隠してる?」
「えっ!えっとー……ごめん!聞いちゃった」

 湖阿は怒ろうという気にはならず、そう。とだけ言うと、座った。
 大方、湖阿の様子を見に来た珮護が入れずに居るところに鷹宗が来て、また何か勘違いして入ってきたのだろう。

「なぁ湖阿。志瑯は王だったってこと忘れるなよー?」
「何で?」

 本を開きながら言うと、珮護は湖阿の側に座った。

「いくら無口で感情出さないにしても、志瑯は女の扱いにはなれてるからな」

 幼少の頃から志瑯に言い寄る女は多く、凪以外にも側女は居る。そんな環境で育った志瑯が女の扱いに慣れてないわけがない。そして、何人かとは大体が一度っきりであるが床まで共にしているのだ。

「男は何考えてるか分かんないぞー?気をつけろよー」
「……気をつける」

 志瑯が無理矢理何かをしてくるとは思えないが、自然な流れで何かが起こりそうだと思い、湖阿は二度頷いた。



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