お腹が空きました。





「ごちそーさまー。さて、お邪魔虫はかえりますかねー、と。」

料理を三人で平らげ、お腹いっぱいになったところで牛野がおもむろに席を立ち、自分のカバンを肩に担いだ。


玄関で靴をはく牛野の背中に杉崎が言葉をかける。

「あの事で来たんじゃねーのか?」

あの事?

紗耶が首をかしげていると牛野はドアノブに手をかけながら爽やかに笑顔を振りまいた。

「いや、今度にしとくよ。今日は杉崎の料理が食べたかっただけー。まあ、あの事は酒が入った夜中とかにな。んじゃあなー。」


パタンと閉じられた扉の前で、紗耶は降っていた手をゆっくりと降ろす。


「あの、“あの事”ってなんですか?」

扉を見つめたまま、のんびりと紗耶は尋ねた。

「さあな。あいつが話したくなったら話すだろ。」


また今度の機会だなと杉崎は部屋の奥にきびすを返した。


「片付けるか。」


「はーい。」


紗耶もその後を追い、食器を運び始めた。
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