わたしのピンクの錠剤
親父の独白
 
あの日、アパートに帰ったとき、あいかはまだ戻っていなかった。

美智子先生のところに電話を掛けても、つながらない。

厭な予感がしたんだ。
放ってなんかおけなかった。

先生のマンションまで行き、チャイムを鳴らした。
でも、返事はない。

ノブに手を掛けると鍵は掛かっていなかった。

ドアをそっと開けて中を覗くと、あいかの靴が見えた。

「あいか」

靴を脱ぐのももどかしく、急いで部屋の中に入った。

思わず息をのんだ。

「何してんだ」

目に飛び込んできたのは、あいかが先生に馬乗りになっている姿だった。

違う。あいかじゃない。
あいかの別人格だ。

そいつは先生にまたがり、先生の首を絞めていた。

「やめろ。やめてくれ」 

振り向いたそいつの形相は将に悪魔が乗り移ったようだった。

しかし、俺と目が合うと、昇華するようにあいかから悪魔の形相が消え、すうっと優しい顔に戻った。

そして、ふわりと気を失った。


 
< 123 / 264 >

この作品をシェア

pagetop