恋の矢
 だとしたら、このまま別れてしまうのは惜しい。
 せめて、どこの誰かぐらいは聞かなければ!

 そう決心し、ヨワリは大きく息を吸い込み、一つ咳払いをして口を開いた。

「・・・・・・あの。い、いきなりすみません。考え事をしていたもので、周りをよく見ていませんでした。お陰でとんだ恥をかかせてしまって・・・・・・」

 慎重に、言葉をかける。
 もちろん顔は前を向いたまま、泉に背を向けたままだ。
 裸の少女を直視する勇気はない。

 背後の空気は、しん、と静まり返っている。

 しばらく待ってみたが、ぱしゃりとも音がしない。
 もしや少女も、どうしていいものやら動けないのだろうか、とか、ひょっとして、衣がこちら側にあって取れないのでは? とか考えと視線を背後以外に巡らす。

 が、見える場所には、彼女の衣らしきものはない。
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