夜籠もりの下弦は恋を知る
「ああ!!大丈夫かい!?」
店の奥からちょうどよく宗盛が出てきた。
慌ててカウンターに置いてあるおしぼりを持ってくる。
「いや~!ベタベタ!!気持ち悪い!」
彩音が騒ぐ中、重衡はじっと潤に視線を送っていた。
「潤さん…?」
厳しい眼差しを彼女に向ける。
(や…やめて…そんな目で、見ないで…!)
自分の醜い心を見透かすような、彼の真っ直ぐな瞳に耐え切れず、潤は店を飛び出した。
「っ!?潤さん!!待って下さい!!」
彩音などほったらかしにして、すぐさま後を追いかける重衡。
潤よりも足が速いため、なんなく彼女を捕まえる。
「潤さん!なぜ逃げるんですか!?」
「いや!!放してよ!」
腕を握られて前へ進めない。
「逃がしませんよ。何があったのか教えて下さい。何も理由なくあんなことをする貴女じゃないでしょう!?」
(理由…!?そんなの…)
パンッ、と音が響いた。
重衡の頬をじわりと痛みが襲う。