コンパス〜いつもそばで〜

受け取った封筒には、差出人の名前も何も書かれていない。


「あっ、それ、前田さんから」

「え?おいっ、タカシっ!」


逃げるように一言そう言ってシャワー室へと入ったタカシに声をかけても返事は返ってこない。



いつもなら、手紙を受け取れば寮に帰って読むけれど、タカシの言葉に指が動く。


タカシの言う“前田さん”が、本当に彼女なら……



封筒に一ヶ所糊付けされている部分を人差し指で、丁寧に破らないように剥がす。



なんでだろう
緊張する。


二つ折りの手紙を開けると、そこには、懐かしい見慣れた彼女の文字


「前田……」


そこには、前田の言葉が溢れていた

< 106 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop