ミルクの追憶






泣きながら謝る少年。

少女は首を傾げながらも、泣いている彼が愛しくなってその黒髪を優しく撫でた。



「大丈夫、大丈夫だよ」

「あいしてる」

「え?」

「あいしてるんだ」


少年ははっきりとそう口にして顔をあげた。

灰色の瞳が憂いに濡れて、少女をしっかりと見つめている。



「わ、たし……」


少女はゆっくりと彼の頬を片手で包み、胸の奥から熱いものがこみ上げるのを感じた。

名前さえ思い出せなくとも、少年にことを心のどこかで知っているような気がして。



「わたし、」


言いかけた瞬間、少女の唇に柔らかくて熱いものが触れた――キスだった。

ミルクまみれで甘かった彼女の咥内は、彼の涙でしょっぱくなる。




「あいしてる、あいしてるよ」

「、……コラ」

「……え?」

「ニコ、ラ」


少女の口からその名が紡がれたことに驚いて少年は唇を離した。







< 25 / 42 >

この作品をシェア

pagetop