恋の飛沫
---近藤先輩!---

 思わず息を呑み、まだ正常に機能しない気管のお陰で、また噎せる。

「おい、大丈夫か?」

 しっかりと夏帆の腰を抱えたまま、彼は言う。
 だが夏帆は噎せながら、心の中で悲鳴を上げていた。

 近藤 卓也。
 一つ上の先輩だ。
 かなりの人気者。
 現に夏帆も、彼のファンの一人だった。

 顔を上げられない夏帆を、どう理解したのか、近藤は水中なのを良いことに、片手で夏帆を抱え、片手で水を掻いてプールサイドへと向かった。

「大丈夫? 上がれるか?」

 プールサイドで、近藤は夏帆をぐい、と抱き寄せて言った。
 できるだけプールサイドに上がるのを助けようという心配りだろうが、憧れの先輩に抱き寄せられて、夏帆はさっきとは別の意味で、身体が動かなくなった。

 プールサイドを掴んだ夏帆の手が、あまりに震えているのを見、近藤はもう一度、夏帆を抱き寄せた。
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