俺と初めての恋愛をしよう
この会社に就職したのも、給料面、待遇、福利厚生が良かったからで、会社自体に魅力はなかった。大学時代に就職に有利になる資格は取得し、生き抜く為の知恵を頭に叩き込んだ。
 何故ならば、今日子はこの顔、この体が、反吐が出る程嫌いだったからだ。
 中学時代に酷いいじめにあった。生活指導の先生が事を収めるまで約三年にわたりそれは続いた。顔のパーツに始まり、身体と人間を作っているもの全てに対して言葉でのいじめが続いた。
 それからというもの見返してやる、という感情よりも、人に空気のように扱われ、気にも留めないくらいの存在になりたいと思うようになり、これまでの人生を送ってきた。
 始めは精神的に疲れることもあったが、一人時間をうまく使うことや、いじめられる対象になるよりは「無」の存在でいることのほうが遥かに、人間らしくいられた。
 大学生になると、高校時代のようにクラスで何かをするという「団結」「集団行動」もなくなり、ますます、孤立していった。
 しかし、全く無視をされることもなく、自分では平和に過ごした4年間だったと思っている。
これを作り上げたのは「つくり笑い」だった。いくら不細工でも、これを実行していたら、挨拶はしても害を及ぼさない子と認識され、陰口やいじめられることはなかった。
 そんな今日子にも大学3年の時、一度だけ告白されたことがあった。付き合うということは、その先に体の関係もあるだろう。こんな汚い身体見せられない、中学時代に言われていた暴言を思い出し、震えが止まらなかった。
いじめというのは、身体に沁み込ませるほどの傷をおわせるのだ。
 「付き合うことはできない」と断り、それからもっと「無」になっていった。
全部を造り替える、そう「整形手術」を受けようと決心したのはこの時だった。
 その目標金額があと少しで貯まる。そうしたら、恋人もつくり、肌を重ねることもできる。女友達もつくろう。いろんなメイクや洋服談義で花を咲かせることもできるだろう。
そんな他愛ないことが、今日子の夢であった。
今日子は、そんな細やかな願いも叶わないとはこの時、思いもしなかった。

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