俺と初めての恋愛をしよう
「林さんのことだけど、彼女、中学時代に深い傷を受けたのね。今日、自分から医務室に来てね、話をしたら全部中学時代からなの」
「例えば?」
「友達が一人もいないっていうのよ? 旅行や動物園、遊園地、映画館、海やプール、他にもっと。他の女性は楽しんできていてもおかしくない遊び、人と関わること全て、全く中学時代からしてないの」
「なんだそれ」

植草の言っている意味が分からず、後藤の眉間に皺がよる。

「彼女確か30歳よね。普通じゃ考えられないわ、その歳になるまで遊びや友達付き合いを全くしてこなかったなんて。そんな人がいるのよ?何があったのよ、まったく」

植草は、怒りを込めた口調で、後藤に報告をした。

「……理解が出来ないが……確かに部署内でもしゃべっているところを見たことがない。話しかけられているようだが、多分、業務のことだけだろう……そう言うことか?」

後藤は、今日子の社内での様子を思い浮かべながら話す。

「会話が面倒だとかそういう感じは見受けられないの。むしろ、おしゃべり」
「おしゃべり? 林が?」

これには後藤も驚いたようだ。無口でおとなしい、これが今日子の誰もが抱く印象だからだ。

「まあ、問診のようになってしまったけれど、尋ねたことに対して、ものすごくおしゃべりで返してくれるの。意外だったわ」

後藤は、しゃべっている今日子を想像できないでいる。

「それに、最初に倒れた時に「髪は作り変えることが出来ないから」って言っていたのも気になるの」
「作り変える。なんだろうな。植草、俺は近づいたらだめなのか? どうなんだ?」
「そんなこと分からないわよ。私、精神科専門じゃないもん。でも、行動を起こしてみるのもいいかもれない。発作がどういう時に起こるのか、何が原因なのかわかるかもしれないわ」
「じゃ、解禁か!? 林に近寄ってもいいんだな?」

後藤は、うれしさに植草に身を乗り出す。
昨日は、衝動的に行動に移してしまったが、今日子は直ぐには拒否をしなかった。
もしかしたら、いい方向にいくかもしれないと、脳裏をよぎった。

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