俺と初めての恋愛をしよう
丁度、話がついたところで柴野が料理を運んできた。
仕事はいいのか、柴野はそのまま席に付き話に加わる。

「で、彼女のことはどうなったの?」
「当たって砕けろ戦法で」

植草が言うと、後藤がすかさず反論する。

「砕けねえわ」
「でも、その言葉が一番あっているのよ」
「後藤から話は聞いていたけど、ほんとに地味だったよなあ」

柴野は、店に来た今日子を見た印象を素直に口にする。
首元までしっかりボタンをしめて、眼鏡にひっつめ頭だ、誰が見ても地味だ。
昭和にいた公務員の様だ。

「それを言ってくれるな」

流石の後藤もそれを反論できない。柴野の肩に手を置いて、がっくりとうなだれる。

「地味にしているだけで、美人よ、彼女」
「そうだろ!? そうなんだよ!」

後藤は、今日子が褒められたことが嬉しい。表情が一変して、嬉しそうだ。
柴野は後藤の様子がおかしくて仕方がない。

「手ごわそうだな、後藤」
「待っていた期間を思えば、どおってことはない。俺は付き合う以前に、嫁にするつもりだから」
「え!?」

柴野も植草もこれには驚いたようで、二人そろって同じようにびっくりした。

「ちょ、ちょっと。会社での林さんを知っているかもしれないけど、他には何もしらないでしょう? 全く合わないこともあるかもしれないじゃない。それに、林さんが拒絶したらどうするの!?」
「拒絶? あるわけない」

後藤は、鼻で笑った。
後藤は今日子との将来が手に取るように分かっていた。誰が何と言おうと自分の未来予想図は違ったりしない。
後藤の横にはいつでも微笑む今日子がいる。どんな手を使ってもそうするつもりだ。
根拠のない自信で満足げな後藤を、植草と柴野は顔を見合わせて呆れていた。



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