令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~
誤算、そして敗北 悠馬Side
翌日、俺は都心にある吉田商事のビルを訪れた。約束の時刻より少し早く着いたので、1階のロビーのソファーに座り、時間を潰していた。

それにしてもでかいビルだ。高さは30階ほどあるだろうか。ロビーを行き交う人がやたら多いが、年末だからだろうか……


やがて時間になり、正面に見える受付に行こうと立ち上がった時、受付にある人物が立ち寄るのが見え、俺は愕然とした。


その人物とは、もちろん俺が良く知る人で、まさかここで見るとは思っていなかった人物……おふくろさんだ。

他人の空似だろうか。いや、おふくろさんに間違いない。いくら遠目で横顔しか見えないとしても、自分の母親を見間違ったりはしない。

その女性はグレーのスーツを着ていて、普段はラフな服装が多いおふくろさんにしてはおかしいが、そのスーツに俺は見覚えがあった。何かのイベントがある日だけ着る、スーツの中の一着だと思う。

ちなみに、今朝おふくろさんがどんな服装で家を出たのか俺は知らない。その時間、俺はまだ寝ていたから。


仕事で来たんだろうな。だが待てよ。出版社と商事会社に、どんな繋がりがあるのだろうか……


おふくろさんが受付を済ませ、振り返ると俺は咄嗟にソファーに座り直し、テーブルに置いてあった新聞で顔を隠した。

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