青のキセキ
「もしもし」
課長が電話に出ながら、窓際のソファへ腰かける。
そんな課長を横目に、私は裸でシーツに包まったまま課長に背を向けた。
綾さんと電話で会話する姿を見られたくないはずだと思ったから。
私も見たくなかったから。
課長の姿は見えないはずなのに、私の全神経が背後に集中する。
「...え?」
課長の驚いたような声。
「泣いてたら分からない!ちょっと落ち着けって!」
「どこの病院だ?......わかった。とりあえず今から行くから、ちょっと待ってろ」
病院?綾さんに何かあったの...?
電話を終えた課長が、私の側へ近付いてきた。
「...美空、ごめん。帰らないといけなくなった」
私の頬に触れ、悲痛な面持ちで謝る課長。
「何かあったんですか?」
只ならぬ気配に、不安になる。
「義父と義母が...綾の両親が事故にあったらしい......」
「え?」
「詳しいことはわからない。綾も気が動転しているようで訊こうにも聞けなかった」
あまりにも突然のことで、課長自身も驚いている。
「私のことなら気にしないでください。早く帰ってあげてください」
「すまない」
そう言って、課長は服を着始めた。
「また連絡する」
そう言い残し、部屋を出ていく課長の後姿を見つめる。
バタンとドアが閉まった後も、私は、そのままドアを見つめ続けた...。