ふわり、溶けていく。
ふわり、溶けていく。



――ふと、白い何かが視界に入って。

そして……すぐに消えた。



それに反応して足を止めると、アスファルトの地面とローファーがぶつかり合う。

コツン、と小さな音を立てた。



その間にも、白い物体はゆっくりと視界の上から下へと落ちていく。



……何度も、何度も。

ときには少し、落下速度を上げながら。



「…雪、か」



不機嫌顔で空を見上げる。

頭上にはそんなあたしと同じように、曇って捻くれたグレーの空が広がっていた。



憎たらしいことに空は、あたしが一番嫌いな雪を降らせてくる。



最悪、と。

小さく呟いた声は首と口元をぐるりと覆ったマフラーの中に埋もれた。



…雪は嫌いだ。

あの日のことを、思い出させるから。



どうしてあの日に限って、雪は降っていたのだろう。



思い出と結びつくものさえなければ、それでよかった。



そうすれば、ぐるぐると心の中で渦巻く物体を意識することもなかったのに。



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