孤独の戦いと限界
〜食堂〜

食堂は人の波で、まるでラッシュアワーだ。
またも、人酔いが始まる。

…‥


『ふぃ〜、コロッケパン、ゲット』

購買でコロッケパンだけを買う。
満腹の状態になると、頭の回転が鈍くなり読書に馴染めない。

だから昼ご飯は少量ですます。


〜中庭〜

『占領されちったか』


俺は日光浴を兼ね、外で食べながら読書をするつもりだったが、空ベンチを探しても空いてない。

『あれは…‥』


藤さん…‥
ベンチに座り、やたらと小さい弁当を膝に乗せて、ハンカチや箸を出して、昼食の準備をしている。

『混じるか♪』


ユーモアを混じえて、戦士らしく突っ込む。


たったったっ…‥


『わっ!』

『速き事、風の如く♪』

何が起きたのか、目をパチパチさせている。

『………』

『…、藤さん?』

『…、宮川君、いきなり走って来るなんて、ビックリしますよ』

『…動かざる事、山の如く♪』

『私は山じゃありませんよ』

『俺なりのスキンシップだったが逆効果かな、あはは…』

『(あっ…)』

『ご、ごめんなさい…』

『い、いえ!、少し驚いただけです』

『…そっか』


相手は女性なんだ。
スキンシップは良く考えて、行動に移そう。

『宮川君も昼食ですか?』

『うん、日光浴を兼ねて昼食にしようとしてた。隣、空いてるかな?』

『うん、どうぞ♪』

隣に座りコロッケパンをほうばる。
食事は腹八分がベストと聞くが、腹二部ですませ本を取り出す。


『…もしかしてコロッケパンだけ?』

『まぁね、少食すぎて笑えるかな』

『良かったら、私の弁当少し食べますか?』

『いや、いいんだ。気にしないでくれ』

『もしかして少食なの?』

『いや、ご飯大盛タイプだよ。昼食後はよく読書するんだ。でも満腹状態だと頭の回転が鈍くなるから、読書予定の場合は、いつも少食にしてる。けど…』

『けど…?』


俺の中で直感が走った。
このまま、藤さんと話すのもいいかもしれない。

相性が合う、というのかな。無性に話をしたくなる。


『藤さんと話もいいかなって思ったトコ、話していい?』

『うん、していいですよ♪』


こういう即答は、凄く嬉しくなる。
とりあえず、嫌われてなくて、ホッとする瞬間。


『あっ、その前に』

『?』

『私の呼び名は、恵理って呼んで下さいね』

『…藤、恵理、さんっていうんだ』

『はい、名前で呼び合う方が他人行儀がなくていいです♪』

『恵理、…ちゃん?』

『ちゃんは、いいです』

『呼び捨ては呼びにくいなぁ』

『慣れれば大丈夫ですよ、優助君』


俺の場合は、君付けか。
すっかり恵理のペースにハマってるかも。
何か、心地よい空間が出来上がってる。


『恵理…』

『何ですか?』

『…いや、呼んでみただけ。…!、そうだ、恵理』

『な、何ですか?』


不意に友美の言葉を思い出した。
友美の思い違いではないと、大分早く門に待たせた事になる。


『今朝、門前で何時から待ってたの?』

『えっ!、あ…、別に待っていなかったですよ。ちょっと風紀委員のお手伝いです。その…、学生の服装チェックとか‥』

『………』

『お手伝いです♪』

『…本当に?』

『…その、話すほどのものじゃ…』

『あ…、とぉ』

明らかに困惑している。
これ以上突っ込んで聞いても、せっかくの仲に亀裂が走るだけだろう。


『いや、忘れてくれ。何でもない事だった』

『…うん、話してもきっと面白くないから』

『………』

ここは話題を変えよう。
恵理のイメージとか。


『俺は恵理の事、よく知らないけど男にモテてることなら知ってるよ』

『そんな事ないですよ、私は別に特別じゃないですから』

『………』

スレンダーなルックス、美貌、謙虚、そして綺麗なロングヘアーに、優しそうな目、希有で特別だと感じるが…。


『………』

思わず見とれてしまう。


『‥そんなに見られたら恥ずかしいよ〜』

『でも普通の男なら絶対、可愛いって言うぞ』

『………』

頬を染め、口に手をやりながら、ボソッと呟く。


『優助君もそう思いますか?』

『!、…何か、その、話題を変えようか?』

『変えないです』

却下された、答えにくいなぁ。


『…ああ、俺の目から見ても可愛く見えるよ』

『本当ですか!?』

『………』


この場合、他に選択肢はないだろう。
よぉし、相手が攻勢にでるなら反撃だ。

『じゃあ、恵理から見て俺はどう見える?』

『えっ!、…何がですか』

とぼけても問い詰める。
攻めの一手だ。


『恵理から見て俺は、カッコいいか聞いてるの』

『…その、中の中って事で‥』

『…中の中?、なんだそれは?』

『普通の男に見えます♪』

逃げたな、……まっ、いっか。
普通に見えるなら、まだいいかも知れない。

…‥


俺はモテる事の大変さを、友美に聞いて少し共感を覚え尋ねてみた。


『‥恵理、モテるのも大変だね』

『えっ!』

『周りの目が‥、さ…』

『………』

意外な言葉に反応する、あるいは求めていた慰めなのか…。


『モテる人間は、些細な事も周りが敏感に反応するからなぁ。恵理も周りとの戦いが絶えないだろ』

『‥解っちゃうんですか?』

『………』

マジマジと俺の会話に入り寄る。
彼女はモテることのツラさを、既に体験してきたと、俺の中で確信した。


人気が大きいなら、周りは敏感に興味を示し出す。
もしかしたら、大きな重圧かも知れない。


『学生らに俺の屁が聞かれるのと、恵理の屁が聞かれるのは、反応の仕方は蟻と象の違いだろう』

『…それは、その、例え話があれですね』

『因みに俺が蟻で恵理が象…、な』

『?』

『俺は蟻並の屁だが、恵理は象並のダイナミックな…』

『ダイナミックじゃないです!』

睨まれてしまった。
ちょっと怖いかも。


『あはは…はは…』

とりあえず笑ってごまかす俺。
下品だったのかな。


『変な事言わないで下さいよね』

『じょ、冗談だよ。その…、めんご』

『?、めんご?』

『…ごめん』

『…もう、本当に。私はレディなんですから』

『あまり女友達はいないから…、話題が難しくて‥』

『…委員長の人とよく会ってないですか?』

会ってるというか、怒られるというか…。


『椎名とはよく会話するよ。代わりに刺激した話題には、容赦ない攻撃をもらうが…』

『ふぅん、どんな人ですか?』

『…?、会ったりしないの?』

『知ってはいるけど、話した事はないかなぁ』

『…大丈夫、恵理の方が可愛いよ』

『そ、そんなんじゃなくて…』

う〜ん…‥
何と言おうか…


『椎名は真面目で、誰にでもマナーを重視するかな。俺には厳格だけどね。でも、しっかり者だから少し心配してる』

『どうして、しっかり者だから心配なんですか?』

『椎名自身はどんな考えをしてるか解らないけど、しっかり者は逆に、甘え下手だからね。人間はやっぱり信頼できる人に、しっかり甘える必要があると思う。俺の中にも甘えたい、という感情あるしね』

『甘える…』

『例えば悲しい出来事や、人生がうまくいかない時とか、それから‥』

『それから?』

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