鬼祓う巫女

『生きて、足掻け』



あの戦いの後、火の海になった鬼ヶ島から脱出した際新羅から聞いた紅蓮の言葉は、桃太郎に深い衝撃を与えた。

怒りが沸き上がるかと思えばそうでもなく、かと言って嬉しいわけでもないのに不自然に浮かんできた笑み。結局己は、復讐に、鬼に生かされてきたのだと気付かされたのだ。


｢あの衝撃は、忘れられないな｣


ポツリ、と溢した桃太郎の言葉に、百済は眉を寄せ微笑む。余りの呆れに、溜め息を漏らしてしまいそうだった。


｢本当に、酷いお方ですこと｣


主が考えるのはあの鬼の頭領の事ばかり。戦いの時百済が告げた言葉も、桃太郎は忘れているのだろう。こんなにも、強く想いを寄せていると言うのに。

何年も待たされているにも関わらず、百済は桃太郎を愛しげに見つめる。


この人が、生きていて良かった。桃太郎を見つめる度に胸に浮かぶ安堵が、辛抱強く桃太郎の答えを待ち続けられる理由なのかもしれない。


本来桃太郎は高麗の封印によって死ぬはずだった。しかし姫路から引き継いだ巫女の力は薄れ消えかかっていた為か、上手く鬼の邪気だけを払うことが出来たのだ。


なんの因果でこのような結果になったのか。姫巫女の力が何故あの時薄れたのかは解らないままだったが、それで良いと、百済は思っていた。


そんな百済を、桃太郎は見上げると、ふ、と笑う。


｢百済｣

｢何です、若君｣



出会った頃も。あの戦の終盤、こうして百済を見上げた時も。変わらず思う。


｢お前はやはり綺麗だな。この世で一番美しい｣



桃太郎はそう告げると、百済の子守唄のような声に睡魔が誘われたのか、暖かな日差しを受けながら目を閉じた。


百済はと言うと、桃太郎の言葉に僅かの間目を見開くいていたが、眠りについた桃太郎の頭を撫で微笑んだ。初めて出会った時の事を思い出したのだ。出会った時も、この男と共に生きると誓った時も、桃太郎は奇異な己を綺麗と言ってくれた。己を受け入れてくれたこの人が、心から愛しい。


｢ずっと御側にいますわ。良い夢を、我等が若君｣









END