秘密の時間
動けない私に巧さんは声を掛け手を差しのべる。
その手すら、今の私には躊躇われる。
「た、大した事ないんで……」
妙に他人行儀な態度で結局彼の手を受け取らず、私は自ら車を降りた。
歩き出すと私の身体に多少違和感を感じた。
ほんの少し身体がふわふわするような、身体が軽くなった気がするような……。
きっと慣れない長旅で少し疲れてしまったのだろう。
そんな風に考え気にも止めなかった。
彼の部屋に着き、ソファーにどさりと座り込むともう動く事もままならない。
巧さんが何か言っているが、上の空でしか聞こえない。
本当なら色々考えなくてはならない事がたくさんあるのに、それすら考える事が億劫で、ぼんやりとしてしまう。
「美優、大丈夫か?」
そんな声が聞こえたと同時に私の額に巧さんの大きな手がピッタリとあてがわれる。
そんな彼を上目使いで見詰めると、彼も私を見つめ返した。
「……熱いな」