秘密の時間


異様に近い課長の顔にドキリとし、後ろに仰け反ると課長がニタニタと笑っている。


「中村さんて可愛いね。男性社員にモテモテでしょ?」

「そ…そんな事、ないです」



課長のとんでもない台詞に慌てて否定で答えると、ふうーと課長のため息が聞こえた。



「中村さん、仕事辛いの?大橋部長にいじめられてない?もしよかったらうちの課においでよ。
中村さんならいつでも歓迎するよ」


話のつじつまが分からなくて小首を傾げると、課長の表情がふっと緩む。



「まぁさ、悩み事があるならここに電話して」



そう言って、自分の名刺の裏にすらすらと携帯番号らしい数字を書き連ねる。



「絶対かけて!待ってるから」



それだけ言うとさっさと課長は休憩室を去って行った。



一体今のは何だったの?
新手のナンパ?
それともただ単にやさしいだけ?


でも、手の中には課長の名刺が。


それをずっと凝視してると「美優」なんて呼ばれた気がした。



えっ…。



顔を上げると、目の前には怒りを露にした部長の姿があった。


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