秘密の時間


ぽっと赤くなる頬。


昨日の晩の出来事が頭の中で甦る。


触れる唇が少し冷たくて、そんな昨日の余韻に浸っていると「おい!」なんて声がした。


この声は…。


「中村、まだ、帰らないのか?仕事そんなに好きなのか?だったら残業でもしてくか?仕事ならいくらでも…」



彼…部長の台詞を遮ぎる。


昨日は『美優』って呼んでくれたけど、今日は『中村』なんだ。


まぁ、まだ仕事中だし他人の目もあるから仕方無いのかな?


ほんの少し沈んだ気持ちで、部長を見つめ言葉を紡ぐ。


「今日は、帰ります。お疲れさまです」


ペコリと頭を下げ、私はフロアを後にする。


その、部長に背を向けた一瞬の時、ぼそっと言った部長の声が耳に届いた。



「今晩、仕事終わったら電話する。

振り向かずそのまま、前進め」



小さな囁きにドキッと大きく高鳴る鼓動。



部長に言われた通り振り向かず前に進んだ。

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