X人のご主人と愉快な式神たちの話



 当然のことながら、妖かしの類も出るであろう。

逆に人の多いほうには、怨霊が出やすい。

人の世とはそれだけ怨念に乱れ、怨霊を生み出している。

むしろ妖かしのほうが性質がいい。

 おそらく、この吉名が使われている大店を悩ませているのは、妖かしの類だろう。

「で、なにがあったんでえ」

「おうおう、それを言いに来たんだった」

《この娘、七衛門と似た者同士ではないか》

 朧蓋翁が言うた刹那、吉名が大きな耳をぴくりを動かした。

目を瞬き、蚊でもいるのかとばかりにあたりを一瞥する。

―なんか、誰か何か言ってなかったか。

 この朧蓋翁、人外なるものと言えど、存在せぬものではない。

 だから気配は必ずある。

姿見えずとも、幾人かの人間は気配だけでも感受できるだろう。

―おい、この娘っこ、おめえさんの気配を感じてやがるぜ。

《そのようじゃな》

 自分ほどのものが人間如きに気配を察されたのが気にくわぬのか、

それともこの娘のように妖かしを感ずる者が、平安の世より増えてきて不思議なのか、

珍しく朧蓋翁は渋い顔をした。

「顔・・・でえ」

「顔だと」

「でけえ顔よ。絵草子に見るような牛車の車輪に顔がついてるやつ、みたいなさ。

顔はあるくせに体はねえ。色白のお歯黒を塗った目の細い女でよう、

顔があちきの身の丈ほどもあるんでえ、奇怪なもんだ」

 吉名は自分の足元に手を置き、一気に自分の頭のてっぺんまで手を上げた。

それくらいの大きさだ、と言っているのだろう。

「それが、どうしたんで。

悪いが、何もしてねえ妖かしを斬るなんつう弱い者いじめのようなこたあ、したくねえからよ」

 一瞬、七衛門の瞳が真摯に煌めいた。

「うちの番頭、病弱でよう。仕事はできる癖に気もよわっちいからかねえ、

妖かしってば、番頭ばかりを脅かしに来るんだ。

店の中だろう、町のすみっこだろう、お参りにやってきた神社にだって、

なんのそので脅かしにきやがるんだぜ。

もう、番頭ってばやせ細っちまってよ、こっちも仕事にならねえのよ」

「確かになあ」

「あんたに妖かしを斬れなんて言わねえ、人を食ったわけじゃねえからよ。

だが、これ以上はこっちにも迷惑だ。

なあ、あんたの力で妖かしを追っ払ってくれよ。

それで、もう二度と店に悪さしねえように言ってくれりゃいいんだ」



< 14 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop