シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


かつて……、端正な櫂様の顔から、凛然とした崇高さを下卑た色に染めて歪ませ、櫂様の放つ王者としてのオーラに代わり、その体を人工的な金飾で賄おうとしていた男は、

今は緋狭さんや氷皇と同じ型の……漆黒の外套を纏ってかつての虚飾の光を消し、闇色の崇高さを外套の持つ効力で無理矢理引き出していた。

私達とは違う立場なのだということを見せつけるように。


澱んだ闇色の瞳が憎々しい。



私は忘れない。


"約束の地(カナン)"を爆破させたその笑い顔を。

当主と共に笑い続けていたあの声を。


決して忘れるものか。


櫂様と同じ憂いを含んだその切れ長の目で。

櫂様と同じ漆黒色を纏って。


櫂様と同じ――

ひとりの女性を見つめて。



「小娘……」


櫂様と同じその手を伸したその先の女性は、美咲と一緒に座り込んでいたが、無表情のまますっと立上がると、久涅ではなく…玲様の真横について立つ。


玲様が微笑んだせいではないんだ。


久涅が…櫂様と同じ瞳で芹霞さんを見ていたから。

邪な瞳に芹霞さんを映したくなかったから。


多分そうに違いない。

私の体が動いてしまったのは。


そうでなければ、私の体を動かした心の動きが説明出来ないんだ。


そうでなければ――

玲様の横に進んで立つその姿を見たくなかったから、としか…。


ありえない。

こんな状況で、真っ先にそれを考えるなんて。


私は、玲様を次期当主をお守りする警護団長。

例え今、警護団が事実上破綻し、そして当主に背いた私に、団長を名乗る資格がないのだとしても。


私は――

大切な方達を守る役目がある。


「あ……」


芹霞さんが声を出すより早く、気を失って倒れかけた美咲を、周涅が支えるようにしてその肩に担いだ。



「なあ、久涅。その外套についている黄色い模様、なかなかお洒落だね」


玲様が一歩前に進んで、皮肉を言った。


黄色い粉が確かに、微かにだけれど目に見える。

クチュンクチュン煩さかったクオンは、ようやく遠坂由香が鼻をかませることに成功したようで、今は落ち着きながら…唸っている。


「教えて貰おうか。何故黄色い粉を身に付けて現われるのか」


玲様の声音が低くなり、周りの温度が下がった。



「嫌だと言ったら?」

「言わせない」



ぶつかりあう敵意。



「お前は、黄色い外套男と関係があるのか?」


黄色い蝶と黄色い外套男はワンセット。

"約束の地(カナン)"で現われた外套男。

その時、久涅も"約束の地(カナン)"に居た。



「お前が、黄色い外套男を操っているのか? 強いては、黄色い蝶を」


玲様だけではなく、私達全員がそう思うのは至極当然の論理の帰結。

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