シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
玲くんは優雅で気品ある白い王子様でも、あたしは上品な美しいお姫様からかけはなれていて。
そう、まるで魔法とは無縁の"灰かぶり"。
そんなあたしを、玲くんが魔法をかけて…隣に立つお姫様に選んでくれた。
玲くんの愛情が魔法という奇跡を起こして、身分不相応で無理がありすぎるこの話を、現実のものにした――はずだった。
だけど、現実は変わることはなかったみたいだ。
お姫様だと思っていたのは、きっとあたしだけ。
玲くんがいなくなれば、かけられた魔法は消える。
現に今、魔法は消えかかっている。
あたし…頑張って"彼女"サンを主張してみたのに。
元カノに啖呵まで切ったのに。
――夢を見させてくれてありがとう。
あの時の玲くんは、演技ではなかった。
本気の言葉だった。
少なくとも、あの時点で玲くんとの別れなど微塵も考えていなかったあたしにとって、そのあまりにも心外な言葉に驚くと同時に、傷ついた。
そして思い知らされた。
別れというものは、最初から……現実という一番身近な時間軸に、確実に潜んでいたことを。
シンデレラにかけられた魔法に、時間制限があったように、玲くんとの関係は…タイムリミットがあったんだ。
その時間がいつなのか判らず、この先の未来も玲くんと一緒に楽しみたいと思っていた、馬鹿なあたし。
ああ――、
だから恋愛っていうのは、終わりが見えるから嫌なんだ。
アタシガホシイノハ……
永遠じゃないから嫌なんだ。
エイエンというウンメイ。
そう考えたら、悲しくなった。
だけどそんな感情は、あたし個人の、身勝手な感情だから。
それを押し込めて、今は前に進まないといけない。
そんなことでぐだぐだ思い悩んでいる暇はないでしょう?
――否。
今突き詰めて悲しい現実を、これ以上感じたくがないゆえに。
あたしは、この問題を先延ばしにしようと思ったんだ。
完全逃げだ。
逃げれば解決出来る問題でもなく、これからも不安に苛まされるけれど、あたしは…玲くんにさようならという決定打を言われたくなかった。
笑い飛ばしてしまえ。
なかったことにしてしまえ。
そうすれば、優しい玲くんは言葉を飲みこむ。
卑怯なあたしは、見て見ぬ振りをきめた。
あの時間を――
なかったことにするために。
巻き戻しをさせないために。
魔法をかけられている時間を、引き延ばすために。
自分のことに一生懸命すぎて、だからあたしは……、切なく向けられる玲くんの眼差しに気づかなかったんだ。