シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


なんだかね……。

人だろうが人でなかろうが、そんなものどうでもいいんだ。

見知った者だろうがそうでなかろうが、櫂達と共に戦っているのなら、それはあたし達の仲間。

仲間が失われるのは、見ているだけでも心を抉られるように辛い。

しかも主らしい小猿くんの慟哭を見ていたら涙が止まらなくて。


あの消えた式神、わかっているかなぁ。


櫂も煌も涙を流したこと。

忍者みたいな人も、いまにも倒れそうになっているへのへのもへじも。

そして意識なくくったりとしたあのリスでさえも。


皆、泣いていたんだよ――。


失ったものの大きさは、誰にとっても大きいものだったんだ。

誰の心にも、消えぬ形跡を残していたんだよ。


それは永続的に生き続ける。


あたしは式神という原理はわからない。

呼び出せばまた出て来るものだと思ってしまうけれど、皆のあの悲しみを見れば、皆にとっての式神は、消えたあの"彼"のみだということがわかった。

今後、小猿くんが例え同じ姿で召喚したとしても、それは皆にとっての"彼"じゃない。


命も心も、何度も再生出来るものではない。


そのことは、"彼"も皆も、術者の小猿くんもわかっているのだろう。


命というものは、その重みは――

使い捨てになって終わるものではない。


紙切れ一枚で終わるような、そんなうすっぺらいものではないんだ。


それを……ねぇ、


「なんで笑ってられるのよ、あんたは!」


止まらないよ。

怒りが止まらないんだよ。


「心があるんだよ、命があるんだよ!?

どうしてそれがわからないの!?」


モノのように扱えるその心が。


「蛆虫……? ふざけんな!」


まるで、あたしの心に呼応したかのように、小猿くんが飛び込んでくる映像が映る。

それに気を取られていたのか、或いは動いた紫茉ちゃんに気を取られていたのか、周涅の一瞬の隙は――あたしに頭突きを食らわせられる絶好の好機となった。


「周涅……あたしの堪忍袋の緒が切れたぞ?」


紫茉ちゃんの低い声。

キレちゃったみたいだ。

だとしたらあたしだって同じだ。


あたしだけではない。


小猿くんを助けようとしたあの式神の心は、あたし達の心にも伝播した。

心から心へと。


止まらないよ。



そんな時だったんだ。



凄い破壊音をたてて、床が崩れたのは。


「お前、なにをしている!?」


周涅の注視はあたし達ではなく、床を外気功で破壊した玲くんに向けてだった。


「タイムオーバーさ」


玲くんは冷ややかな顔をして、陥没の傍に立った。

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