シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


本当は、こんなに騒がしいオレンジワンコを、最初に見たくはなかったけれど。

本当は、真っ先に僕の従弟を見たかったのだけれど。


……いつもと変わらない馬鹿げた反応になんだか和んで、楽しい気分になってきたから、それはそれでいいとしよう。


煌が口にした"無効"。

真っ先に思い浮かんだのは、久涅のこと。


表世界において、あの部屋にて後半…あいつの姿を見ていない。

それと同時に、クオンの姿も見ていない。


クオンが久涅を追いかけたのか、別口なのか。

消えたふたつの存在は、安易に見過ごせるほどの小さな問題ではなかった。


それが凶と出るのか吉と出るのかわからない表世界に、僕は戻るわけにはいかなくて。


映像を見ているだろう皆に、とりわけ桜に訴えた。


なにかがおこるかもしれないから、気をつけろと。

僕の代わりに皆を守れるのは、お前だけだと。


なにかが起こる危険を孕んでいるのは、表世界に限ったことではない。


久涅のいなくなったことで、表世界と裏世界、どう影響が出るのかわからない。

裏世界にいるあの桜もどきが僕の力を弾いたのも、久涅が一枚噛んでいるのかも知れない。


真実がどうであれ。

無効の力の源がどこからにせよ。


僕達は――

無効には…久涅には負けない。


かつて横須賀で、"無効"と競り合い負けたあの時の僕達ではない。


「煌、あの桜もどきが奥義で抑えられないのなら、このリスがしようとしていたことを僕がやる。話はそこからだ」


「あのチビからお前の言葉って、なんだか……。まぁいい。地面のあちこちに埋まっている鉄の胡桃全てに雷通せ。お前のことだ、電気を通すものなら感覚で見つけ出せるだろ」


そして煌は、妙に強張った顔を僕に向けた。


「……なぁ、玲」

「なんだ?」

「術を破る前に、どうしても……はっきりさせておきたいことがある。ずっとずっと気になっていたことだ。このもやもや感、俺の力では消すことができねえ」


煌が、いつになく真剣で、緊張した面持ちで僕に聞いてきた。

だから僕も自然と、緊張に浅い息をしながら、強張った顔で煌の次の言葉を待つ。


「お前にしか、わからねえことなんだ」


煌の本能が……なにかを嗅ぎ取ったのではと。

煌の直感は、桜並みに鋭いもので、過去幾度も僕達の苦境を切り拓いてきたものだから。


煌――。

お前はなにを感じたんだ?

それは僕がわかることなのか?


「玲、あのさ――」


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