シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


まずは、この嵐から、緋狭さんが俺達を連れて逃げようとしないこと。

ましてや力が使えないというのに、まるで俺達を引き込めるかのように煌にじゃれ、動こうとすれば会話にてこの場に縛っている。


いつもの緋狭さんならありえない。

いつもの緋狭さんなら、行動あるのみ。


それに久遠の話。

なぜ緋狭さんが契約をしようと選んだのが久遠だったのか。

黄の印により、緋狭さんの肉体は衰弱して危険な状態であり、精神だけはこの世界に縛られていた。

それを緋狭さんが甘んじて受けているわけでは無く、その危機的状況をなにかに"利用"したというのなら、協力者はなにも約束の地(カナン)から動けない久遠で無くてもいいはずで。


俺達ではなく、久遠でなければならない理由はなんだ?

ネコに意識を移して表世界を動いていたのなら、それを可能にしたのは…単純に、久遠の潜在能力の高さゆえのことか?

だから緋狭さんは、わざわざ久遠を選んだのか?


もしそれだけが理由でないのだとすれば――。

久遠がネコの姿に意識を移せた理由のひとつに、肉体と精神が乖離している状態であるから…とは、考えられないか。


つまり――、


「緋狭さん、久遠は……約束の地(カナン)で緋狭さんを護っている久遠は、無事なんですよね!?」


現世での久遠の肉体は、緋狭さん同様…危機的状況に陥っていると。

その緊急避難として、緋狭さんともにネコの体に移っていると。


赤い目が俺を見つめる。

それは緋狭さんだけの意識によるものだとは思えなかった。


久遠は、俺になにかを言いたがっている。

だけど言えずにいる。


「久遠、出てこい!!」


思わず怒鳴った時、ネコは言った。


「……早く、この世界を抜けよ、坊」


緋狭さんの声と言葉で。


あくまで裏方に徹するつもりか、久遠。


それが久遠の意思だというのなら、少なくとも現時点、その意思を貫ける"生"はあるわけで。

弱って俺に助けを求めたのなら、それこそ久遠の一大事だとも考えられるわけで。


または――

もしも、自分の危機を省みず、俺を助けに来たとか言うのなら。


らしくないと、俺は今まで通りに喧嘩腰になろう。


久遠の無事を願うのなら。

俺が駆け付けるまで、いつも通りの久遠を信じ続けるしかない。


約束通り、必ず助けてやる。


俺には、表世界でもやることがある。

ここでくたばってたまるか。



「よいか、坊。時間がないため、簡潔に述べる。表世界、裏世界、電脳世界は、不可侵の関係で結ばれておる。そこに、他世界を利用しようとする様々な思惑が入ったことで、均衡を保っていた世界のバランスが崩れているのが今の状態だ。他世界からの攻撃に対しての防御方法を、同じ"攻撃"にて応戦しようとした時、その反発力ともいえる斥力はかなりのもの。それを利用しようとしているのが、皇城――」


突如口を閉ざした緋狭さんが、顔を斜め上に向けた。


ゴォォォォ。


「嵐が、飲み込みに来たな」


緋狭さんの声は、愉快そうだった。
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