シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「"色"に惑わされるな……くちゅん、くちゅん」

「緋狭姉、どうした? 風邪か!? 鼻水……まあいい、俺の服でかめよ」


風邪の音が静まりつつある中、豪快な…鼻をかむ音が聞こえてくる。


「……遠慮くらいしろよ、ネコのくせになんでこんなに……」

「仕方ないだろう。埃と…あいつ特有の"粉"が、この姿には弱いのだ」


コツン、コツン……。


現れるのは――



「粉ってなんだよ?」

「蝶の粉、鱗粉だ」



青白い仮面をつけた、黄色の外套を体に纏った男。


男が俺達の前で立ち止まった時、


「はあああ!? 蝶なんてどこにいるよ!?」


砂嵐は――完全に消えた。

消えてしまった。



――蝶の粉、鱗粉だ。


黄色い蝶の元で現れる黄衣の王。

約束の地(カナン)でも黄色い外套男は現れ、黄色い蝶が飛んだ。


この場に彼がいるということは、目を抉る…見えない蝶が、また飛んでいるのだろうか。


蝶が見える玲は硝子の塔。

蝶を偃月刀で斬れる煌は、蝶が見えない。


そして緋狭さんは、いつもの多大な力がない。

久遠の力は、約束の地(カナン)では蝶を滅せられるものではなかった。


今、俺が見えない真実の姿は、どんな景色だ?

なんのために、緋狭さんはこの男を待っていた?


「坊、ここを乗り切るためには、こやつの協力が必要だ」


今の状況に、なぜこの男が必要なんだ?


どくん。


なんだ、このひっかかり。


黄衣の王がこちらを見ている。


どくん…。


榊は、嵐を鎮められるだけの力を手に入れるのと引き替えに、人としての肉体を失ったのだろうか。


この世界の住人は、外界からの人間を治療して黄色の衣と仮面をつけさせて、一体なにをしようとしていたのだろう。


その説明は夢路の話には出てこなかった。

むしろ、そこの部分を誤魔化された。


――色に惑わされるな。



緋狭さんが言う色とは、なんの色?




どくん…。



緋狭さんをいつも助ける氷皇。

緑皇曰わく、その氷皇は、緋狭さんが反旗を翻した黄皇側にいるというのなら。


氷皇の懐刀であり、氷皇を心酔していた榊は――、

今、黄色を纏っている榊は――、



本当は何色なんだ?




なんだ、この感覚…。

なんだ、この胸のひっかかり。




点と点は、繋がりそうで…まだ線にはならない。

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