シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「しかし…何に対しての前夜祭?」


Zodiacのライブ以外の記述はなく。

プレイベントを大々的に告知するのであれば、メインイベントは更に宣伝してもよさそうなものを。


このポスターを見ただけで、皆は意味が判るのだろうか。

参加したい意欲は掻き立てられるのだろうか。


そう首を傾げながら、瞬間接着剤を求めて次のコンビニに赴いた時、コンビニから2人の自警団に両腕をとられて、店内から引きずり出されている男に出くわした。

汚れた服を纏った、くたびれた顔の初老の男性だった。

私は物陰から成り行きを見守った。

「バッチを忘れただけだって言ってるだろう? 成人の証明ったって、俺の顔みれば未成年じゃないということは判るじゃないか。あのレジの女がおかしいんだよ、わざわざあんたらが出るようなものでもないだろう」

しかし自警団は耳を貸すどころか、携帯を弄っており…やがて男に淡々と言った。

「お前には免罪符は発行されていないことを確認した」

「だから忘れただけだって…」

「条例20 虚偽罪追加。施設連行」

「いやだ、やめてくれえええ!!」

そして、喚(わめ)く男を引き摺るように消えていく。


「自警団は…いつから警察染みたことまで?」


私の知らない処で、どんな条例が施行されているのかは判らないけれど、益々自警団の力が強まっていることだけは判った。

条例を盾に、未成年だけではなく成人まで自警団が取り締まるというのなら、条例を施行した都知事は何故彼らに次々と権限を与えるのだろう。

公的証明書ぐらいに効力を持つ免罪符。

自警団の裁量により、施設に連行される。


以前、その施設に入れられた少年が、自警団になって再び私の前に姿を現わした事実を思えば。


自警団の増殖。


その憂えた現実に思い至る。


そして同時に思うのは――

恐怖政治で免罪符購入を強いているのなら、自警団を増やすことは黄幡会の資金集めの為とも言えるだろうが、もしそれだけではなく、そこに誰かの"思惑"が入り込んでいたのだとしたら、自警団という存在は、その者にとっての"私兵"ということになる。

矯正施設は、さながら私兵養成所で。

支配可能な私兵を作る場所。


東京を支配しようとでもいうのか?


それならば規則や罰則に拘らず、ストレートにいけばいいものを。

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