シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


鼓膜を突き破り、それは更に内部へと侵入する。

何か私は喚いたけれど、それは言葉にならず。


ただ思った。


紫堂本家にて襲いかかってきた警護団。

ドーピングのように、明らかに何かを"細工"させられていた名残があった。


彼らの耳には――

針が突き刺さっていなかったか。


そう、まるでこの長さの。


だったらあれは副団長が?


ぼやける意識の中で、副団長の首に巻きついた腕の一部が脳に映像を刻む。


ああ…これはきっと、薄れる意識が見せた幻覚だろう。


副団長の腕に…

黒い薔薇の刻印があるのは。


櫂様と…情報屋と、記憶に新しい蛆男の持つその刻印が、紫堂の副団長の腕にあるはずはない。


ああそう言えば、あの蛆男も…長針を使っていたような。



「団長、今まで、お疲れ様でした。

もう――お時間です」



頭の中で――

何かが飛び散る音がした。


私は声を上げた。


それに子供の笑い声が絡み合う。


そして――


「我を称えよ」


そう…子供の口から漏れた気がした。


崩れたくない。

私は崩れてはいけない。


そう思えど、意識だけが急速に遠のいていく。


ああ、あの子供…。

残虐めいた色を浮かべるあの子供。


年齢そぐわず、侮蔑の眼差しで高みの見物をしているあの子供は。


まるで高慢な"エディター"の顔。


だからだろうか、子供の胸元に留められている違和感ある小さなバッチが、最後の…私の意識を振り絞らせたのは。



「九曜紋……」



それは直感。


「ああ…もしかして…」



思い出したその顔は。


"ディレクター"たる黄幡計都に抱かれていた子供ではないか。



黄幡会の――


「きゃははは。ばいばい、おに~たん」


"マスター"…?



そこで私の意識はぷつりと途切れた。



直前、最後に思ったのは――


"早く芹霞さんに、接着剤を届けないと"


ということだった。


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