シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

芹霞の…図工の作品は、僕でも覚えている。

あの…破壊的な、個性が強すぎるオブジェ。


ああ、あの感性だから…ティアラ姫に傾倒するんだろうか。

って、考えるのはそこじゃない。

僕の歯に…その白い変なものがくっつくの!!?


芹霞は、赤いキャップを取り、黄色いボンドの本体に力を入れ、プフプフと音をさせて白い中身を吹き出させ、僕ににじり寄ってくる。


「玲くん、"あーーん"」


僕は…"約束の地(カナン)"での旭を思い出した。


――れいくん、"あーーーん"


今…あれ並の危険が迫っているんじゃないだろうか。



どすどすどす…。


ドアの向こうから聞こえるような重低音は…僕の警鐘?


否――…


『追い詰めたぞ、猫め~』


百合絵さんだ!!

そのままの勢いで、芹霞の背後のドアを突き破って欲しい。


カリカリ、カリカリ。

カチャカチャ。


『ニャアアアン』


哀切漂うネコの鳴き声。

助けを求めているの?


奇遇だけど…僕もなんだ。


『何か変だよ百合絵さん。こっちお構いナシに、師匠と神崎の居る中に入りたいみたいだ。必死でドアノブ回して、ドアに爪たててる。どうしたんだろ?』

『うぬ~。何処まで玲坊ちゃまの幸せを邪魔するのだ!!』

『ニャアアアン』

『あ、何処行く気だ!!! おい、クオン!!?』

『待て~!!』


バタバタバタ…。

どすどすどす…。


行っちゃった…。

皆、僕よりネコの方に行っちゃった。


「さあ、玲くん…」


芹霞の顔が、残虐めいて見えるのは何故だろう。

ボンドと反対の手にある、あの白いものと…本気に僕を結合する気なのか!!?


「大丈夫だよ、くっつければ…元のお顔に戻るから…。欠けた歯、治してあげるからね?」


戻らないから!!

僕は歯は無事だから!!


第一、"木工用"で歯なんてくっつかないから!!


それを言葉にするには動揺しすぎて、僕はぶんぶん顔を左右に振り…そして痛む頬に声を漏らし続けるだけで。


「玲くん、もう大丈夫だからね。

さあ――…

あーーーーん」


「!!!」


芹霞が近付いてくる。



「"あーーーーーん"」



僕の膨れた頬に、冷や汗が滴り落ちた。



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