シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「チビリス、お前の大好物は芹霞でいいな?」

「勿論さ!!」


判って訊いてからなんだけど、迷いないその答えは面白くねえ。

相手はこんなチビでリスなのに、妬いてしまう俺も大概馬鹿だ。

何で櫂のように、大きな心で許容出来ねえのかな、俺って。


「よし、宣言する。俺とチビリス、共に大好物は芹霞!!」


俺もリスも好物が一緒なら、攻撃対象はより絞られ単純となる。

つまりは、芹霞以外だけを追えばいいということで。


『了解した。少し待て』


「ニノ、スタートしたら、1秒ごと10秒カウントとってくれ」

『判りました、イヌ』


準備OK。


後は…念押しだ。


「いいか、玲リス。好きなものには触るなよ。とにかく芹霞が出て来ても、触るんじゃねえぞ? それ以外を攻撃しろ。欲を抑えろ。

煩悩滅殺!! 繰り返せ!!」


「馬鹿犬こそ僕の芹霞には触るなよ? 

煩・悩・滅・殺!!」


「そうだ、煩悩滅殺!!! さあもう一度!!」


「煩悩滅……」


何かが…こっちに転がってきた。


「「………」」


その丸いものはチビ共で雑然となっている舞台にも、コロコロ転がっているようで。


それは――…。


「「………」」


俺は頭の上のチビリスを指でつつく。


「……。おい」

「………」

「……おい。くたばっちまった?」

「………」

「おいって。煩悩滅殺。繰り返してみろ」

「………」

「煩悩滅…おっ!!?」



頭で…飛び跳ねている感触。



そして――…。


「胡桃(くるみ)ッッ!!!」


歓喜に満ちた声。


「求愛の胡桃があんなに、あんなにあるッッ!! 全部、拾わなきゃッッ!!!」


頭で飛び跳ねて喜んでいるのは――

欲に塗(まみ)れたリス。


今まで俺の舵を取ろうと頭に居座っていたチビリスは、意地も矜持も煩悩滅殺も全て放り投げ、頭上から地面に飛び降りて来ると、大きなふさふさの尻尾を派手に揺らして、胡桃に飛びつこうとする。


「おい待てコラ!!!」


小さな手が胡桃に伸びる寸前、その尻尾を捕まえ宙に浮かした。

ぱたぱた、ぱたぱたと…まるでクロールで泳いでいるかのように、リスは四肢を動かす。


「何するんだよ、馬鹿犬!!! 僕の胡桃が、僕の胡桃がッッ!!」


「言った傍から、何してるよ!!! 拾うな、芹霞以外は攻撃だ!!! いいか、欲望を殺せ!!! 煩悩滅殺!!!」


その時、視界に入るのは、


「ニャアアアアン…」


ネコ耳芹霞。

悩ましげに横になり、俺を誘うようにその手を丸める。
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