シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


過去の思いつきや行動が今に繋がると思えば…今の行動のどれも、疎(おろそ)かにできない気分になる。


1分1秒の時間は、未来の…どんな糧となるか判らない。


時間は終わるものではなく、過去から未来に繋がる貴重なものだと…


そう導いてきたのは――

そこで笑い転げている情報屋だ。


――五皇は…ただ"選ばれた"だけの仲。他の五皇の為に心を砕く、そんな感傷的な心は持ち合わせていない。

――緋狭姉だけは、愚弄するな!!!


情報屋は――

直接、緋狭さんを貶(けな)したわけではない。


それを弄された気分になったのは、緋狭さんを崇めるように敬う…俺達受け手の捉え方だ。


――特に…"慈悲の赤"はかなりの恩義を感じている。全てを捨てても、"黄"の約束だけは履行しようとするだろう。

――例え、死ぬことになっても。


そう、"赤"の話題に…俺達は触発されたんだ。

俺達が一番懼れる"死"の話題を前振りに、その後は緋狭さんのことだと具体性は何もないまま、勝手に煽られ…激昂したのはこちらの方。


煌の…緋狭さんへの恩義はかなりのものだ。

いつも怖がっているけれど、その恐怖心は愛情に勝るものではない。


それは煌だけではない。

時に、緋狭さんの…見透かしたような直球の物言いに辟易させられるけれど、だからといって、慈愛深い緋狭さんへの敬愛の心が消えるわけではない。


緋狭さんが居たから、今の俺達が居る。

それは玲も…現在師事を始めた桜も同じ事。


もしもその緋狭さんを貶(けな)されたとしたら、煌の様に反発して、そうした相手と戦おうという心は、誰にもあるだろう。


俺が煌とは対照的に、自分を抑えられたのは、別に理由があった。


情報屋が、緋狭さんが導いた男だということ。

緋狭さんが、裏世界に行けと言ったこと。


緋狭さんの意向に従うために、緋狭さんが選び使わした男と諍(いさか)いをおこしたくないという気持ちが強かったのと共に、


――緋狭姉だけは、愚弄するな!!!


冷ややかだった情報屋のその目が、怒れる煌の動向を探るように、走査し始めたことに気づいたからだ。


そして俺の制止が効果ない程、激情を表に出してきた煌を見て…情報屋の口元が満足気に弧を描いたのを、俺は見逃していない。


煌を怒らせたかったのか?

その為の挑発だったのか?


わざと怒らせて、何の利がある?


それは、氷皇のような…強者故の"遊び"とは違う気がした。


だとすれば、怒らせるのは"必然"?

怒りの火をつけて、見たかったのは"何"?
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