シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


同じ人間なのに、俺には帰るべき場所がある。

それがあまりに恵まれすぎているのだと、そう思った。


俺は、彼らを見捨ててはいけない。

どんな形であれ、遠坂から身を隠し続けてでも、その傍に居たがった榊の姿とダブるんだ。

そして8年前の、荒んだ目をした煌の姿ともダブるんだ。


裏だとか表だとか。

そんな分け隔てられたものではなく、居たい場所にいる…そんな人として生きる為の最低限の権利を、守ってやりたいと思った。

迫害者が"表"に居ることで、表に生きたいのに行けないというのなら、俺が生きる場所を作ってやりたいと思った。

大それたことは出来ないかもしれない。

だけど、俺には…紫堂という特殊な場所に居るから。

その昔、俺の先祖が…異能力者が表に生きれる場所として、"紫堂"という枠を作り出したように、俺だって作りたいと…そう思った。


しかしそれは、飼育場のような囲いではない。

俺が目指しているのは調和であり融和。

誰が上にあるのではない…完全なる同立場。

姿態が不自由なことが、何故下の立場にならねばならない?


心がある限り、全ては同等だ。


夢路に具体性を聞かれた時に思った。

ああ、これはまだ理想論にしか過ぎないと。

実現させるためには、既成の古き因習は邪魔なだけだと。


紫堂という肩書きは、力にもなるが足枷にもなる。


昔がどうであれ、同じ仲間が裏で苦しむのを見過ごしてきた今の紫堂は、今や創立当初の目的を失って、ただ生き残るために権威に走る…迫害者側になってしまっている。

元老院の命令に託(かこつ)けて、非人道的な行いを是としてしまっている。

強さのみしか信じない現実。


元老院に拒絶できる力をつけようと、次期当主だった俺は苦心してきたけれど、俺自身、元老院への対抗策としてしか紫堂を見ておらず、紫堂から疎外された仲間がいることについて、深く考えていなかった。


つまり、俺もまた…恵まれた立場からの視点で、権威あるものにしか目を向けず、強さのみを追い求めていたということで。

だから、俺が彼らに信用されないのも、頷けるんだ。


そして今の…目的の為に手段を問わぬあんな当主の元にて動く紫堂は、此処に居る彼らの力になるとは思えない。

逆に利用して吐き捨てるだろう。


今の俺には、それに抵抗する力があるだろうか。

紫堂櫂としてではない、ただの櫂として、俺には力があるだろうか。


生家である紫堂から…殺されかけた身の上は、追い詰められたまま逆転の機会をただ窺うだけの…矮小な…無力さをさらけ出している。


今の俺にあるのは、仲間だけ。

仲間だけが俺の力。

その仲間もまた、俺の犠牲になっている。

< 850 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop