シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
夢路は言った。
「此処だけの話、久涅は『妖蛆の秘密』を読む力はなかった。しかし彼は、それを読めるという"はったり"で此の世界を生き抜き、未知なる魔書の存在をひけらかすことにより此の世界に秩序を与えた。血筋によって芽生えた力を『妖蛆の秘密』の力とし、その上でウジガミという大いなる存在を説いて希望を妾達に与え、無秩序だった妾達の心を1つに集めた…"改革者"となったのだ」
俺は言葉で説得しようとしたのに対し、久涅は"はったり"にて人々の心を掴んだと言うわけか。
はったりは、それは表で俺がよく使う常套手段。
「久涅は皆の者の心掴んだ。しかしそれは魔書があってこそ。そなたは何も持たぬ中で、裸の心で妾達の心を掴んだ。似て非なるものよ」
そう夢路は、俺を宥(なだ)めるように笑うけれど。
結局は煌と言う特殊な存在と、俺の為に頭を下げた仲間達に支えられただけだ。
「ふふふ。その謙虚さ故に開かれた宴会だったではないか」
どこまでも俺の思考を読んでいるらしい。
俺は苦笑せざるをえなかった。
「……久涅が表を追い出され、此の世界で生きていたのは確かなのだろう。そして生き抜く知恵と力を手に入れた…そこまでは判った。が1つ聞きたい。お前は先刻、皆の前で言った」
――教典は難解なルーン文字で書かれている故に、全解読は不可能な状況であり、ただの魔書としてしかの存在価値がなかったものだったが、"ある者達"の解読で転機を迎えた。そこから…ウジガミ信仰は始まったと言える。
「『妖蛆の秘密』の解読者が単数ではなく、複数だったのは何故だ?」
――久涅は『妖蛆の秘密』を読む力はなかった。
少なくとも久涅ではない。
俺はともかく…白皇によって造詣広く知識を深めたあの久遠ですら、不得手で読めないというルーン文字は、普通人には簡単には解せないはずだ。
……久遠のやる気のない自堕落な性格はおいておいて。
ましてやルーン文字など共用語ではない。
特殊な場合にのみ有効となる文字のはずで。
だとしたら、"読める"特殊環境にあった者達にしか、あの『妖蛆の秘密』の秘密に書かれてある文字を読むことが出来ない。
だとすれば――
――レグが所属していた秘密結社は、その名前の本を教典の1つに掲げていたらしいことが判った。
「若かりし白皇、レグが所属していた…秘密結社の者達が絡んでいるのか」