サマーバレンタイン【短編】
私は田中くんの言葉にふるふると首を振った。

「……いきなりひどいことしてごめん。田中くんは全然悪くない、から……」
 
これ以上話すと泣いてしまいそうだったので、私は黙って俯いた。


田中くんは掴んでいた手をゆっくりと離した。

「……とりあえず座らね?俺、ギターかついで走ったから、すっげー疲れた!」


そう言うと田中くんは堤防の傾斜をずんずんと降りていき、芝生の上にギターケースと紙袋を横に置いて仰向けに寝転んだ。

私もあとについて堤防の傾斜を降り、田中くんの隣に膝を抱えて座った。


さらさらと流れる水の音と、風に揺られてカサカサと草が触れ合う音が耳に心地よく、

体中に溜まっていた熱がするすると放出されていく。


田中くんは夏の星座が散りばめられた夜空を眺めたまま、何も言わずに寝転がっていた。
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