サヨナラの前に抱きしめて-泡恋-
エピローグ
雪が舞う季節は過ぎ、桜の花びらが舞う春になった。
片手に切符を握り、群青色のマフラーを持って。
目に見える景色は違って見える。
電車の少し開いた窓から入る、春の風が柔らかい髪を撫でた。
前髪を触って、指の感触を確かめる。
口に入れたキャンディの味は甘くて、胸をキュンて鳴らす。
『次は春町駅、春町駅。お降りのお客様は──…』
荷物を持って、何度も練習した言葉を繰り返しては、甘い感覚と温もりに心が熱い。
電車が止まって、外に出ると桜の花びらがひらひら舞って春の匂いがした。
今度は私からちゃんと、すきって伝えるから待っててね。
ホームから出て一歩踏み出した時、私に手を小さく振る人の姿が見える。
優しくて、甘い笑顔が私を待ってた──…
-END-