ゆびきり

助けてくれるよね?

【愛羅サイド】
 氷室先輩が出て行ってから、どのくらいの時間が経たんだろう…
 あたしは、メイドさんに連れられてたくさんのウエディングドレスがあるウォークインクローゼットに来ていた。
 メイドさんは忙しそうにあたしの周りをうろうろしていた。
 でも、どのドレスを見せられても、可愛いとか、きれいとか全然思わなかった。
 勝手に選ばれたドレスを着せられ、勝手に選ばれた靴やアクセをして、メイクもされて、せっかくの晴れ姿なのに、あたしの顔は全く笑っていなかった。
 だって、これからする婚約式は、氷室先輩と氷室先輩の両親、そして、あたしの両親が勝手に決めた式だから…
 こんな格好、陸斗に見せれないんだ…
 永遠に結ばれないのかな?
 ずっと近くにいるって言ったのにね?
 約束破ってごめんね?
 あたしは、陸斗と結婚したかった…
 でも、二度と会うこともできないかもしれない…
 助けに来なくてもいいから、あたしのこと覚えてて…
 
「愛羅様、婚約式が始まります…こちらへ…」
 執事っぽい格好をした男性がやってきた。
 でも、立ち上がらなかった。
 ううん、立ち上がることを拒んだんだ…
「すみません、ちょっとお手洗いに…」
「この部屋の一番奥です」
 お母さん、お父さんごめんね?
 やっぱり、こんな式には出れない…
 あたしの幸せは、自分でつかみ取るから…
 あたしの未来を決めてたみたいだけど、あたしは絶対に従わないから…
 さようなら…

 氷室先輩の家は、バカみたいに広いから。
 トイレもバカみたいに広い。
 だから、窓が付いていることぐらいわかってたんだ。
 下を見ると、そんなに高くないし、飛び降りてもドレスが衝撃を吸収してくれるよね…
 音がしないように、ゆっくりとゆっくりと窓から身を投げ出して、気が付いたときには、芝生の上にいた。
 幸い、誰も気が付いてないようだ。
 氷室先輩の家のお金で買ったはずのドレスだけど、走るのには大変だから、スカートのすそを思い切り破った。
 そして、門へと、陸斗の待つ外へと走り出した…
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