大切な人

死神の世界 ハルside

「人間」…それは僕達より後に生まれ、先に死んでいく生き物。




 僕達「死神」はその短い寿命の終わりを見届けて…あの世界へ連れて行く。




 そぅ、人間でいう「天国」ってやつ。




 連れて行くことが僕達の使命であり、運命なんだ。




もし、「神」というものがいるなら、人間の魂を生まれる前の場所へ連れ戻せってことなのかもね。




 僕達は人間でいう「魔法」みたいなものが使えるし。




僕達は人間に似ている。




 外見だけ見れば、普通の人間と何も変わらない。




 ただ…歳をとらないだけ。




 人間は年をとるたびに老化していくけど、僕達は何百年、何千年生きようと変わらない。








ここは、僕達の世界。




 天国でも、人間界でもないくらい闇の世界。




 そこで…僕達は生まれた。




 誰に作られたのかも誰に命令されたかもわからずに、僕達は生きてきた。




「ハル?何ボーッとしてるの?魔王様が呼んでるよ。」




声を張り上げて、僕の名前を呼ぶのはユナ。




 気づいた時から隣にいて一緒に人間を連れて行ったりする。




 赤く長い髪をなびかせて走るその姿は、まさに人間の少女そのものだ。




魔王様というのは、僕達死神の「父」的な存在であり、死神界の「王様」のようなお方だ。




 僕達をかわいがってくださり、「仕事」をくださる。




 黒いひげを長く伸ばし黒いマントを羽織っている姿は、魔王そのものだ。




「魔王様。ハルを連れてまいりました。」




「おぉ、来たか。ハル、次の仕事じゃ。ほれ。」




魔王様から、一人の少女が写っている写真をいただいた。




 真黒な長い髪のどこにでもいるような人間。




「いつも通り、ちゃんとやるんじゃぞ。」




「「はい。」」




僕達は返事をして、王宮から出た。




「私、今回別の人間だって。ハルは女の子でしょ?こっちの死因は病死か。そっちは?」




「…交通事故。」




「そっか。じゃあね。」




ユナは自分の仕事に行った。




 僕は、死神の仕事が嫌いだ。




 連れて行くときの人間の顔が頭から離れなくなるから。




 …またひとつ、あの顔が増えるのか。




ユナも強がってはいるけど本当は嫌みたいだ。




 本当はユナにこんな仕事、やらせたくない。




あいつは、妹みたいなものだから、僕だけがこの仕事をやればいいと思う。




けれど、あいつに そんなことをいうと「二人だから、つらいことも半分なんでしょ?ハルはそんなこと考えなくていいから。」って怒られる。




 なんだかんだいっても、根は優しい奴だ。




 表に出すのが苦手なだけ。ばかなやつ。
< 2 / 9 >

この作品をシェア

pagetop