風に恋して
「侵食の呪いを、かけられているのだと思います」

侵食の呪い――心の隙間を感知してそれを広げ、意識を乗っ取るものだ。リアの場合、“殺す”という意識に侵食される。標的はほぼ間違いなくレオ。

手段は特に限定されていない。その目的――レオを殺めること――が果たせるのなら、何でも良い。力で敵わなかったから、赤い瞳を使おうとしたのだ。

自分を見失うということ。記憶の狭間でどちらの自分が本物なのか、わからなくなってしまった。おそらくそれが、リアの心の隙間。それも、故意に作り出されたもの。

つまりリアの記憶をいじったのは、侵食の呪いの伏線のようなものなのであろう。

じわっと、目頭が熱くなる。

「……っ、エンツォは、どう、して……」

どうして、自分にこんな呪いをかけたのだろう。

好き――だと、思っていた。いや、思わされていた。偽物の想いなのかもしれない、それでも、彼と共に過ごした時間は本物だったはず。その時間だけでも、信じたいのに。

「少しお話したほうが良さそうですね。リア様、少し私の執務室へ来ていただけますか?」

セストはリアの背中をそっと押して促した。
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