風に恋して
「ねぇ、リア」

ちょうど、リアが戸に手をかけたとき、ユベール王子に呼び止められる。

「はい?」

リアが振り返ると、ユベール王子は笑顔で近づいてきた。

「ルミエール城に来る気はない?クラドールとしての待遇は保証するよ。俸給も倍、いや……君が欲しいだけ、出す」

彼は何を言っているのだろう。突然の申し出に頭が回らない。

「それに、地位もあげるよ。僕の……側室としての、ね」

リアはその言葉に首を振った。

「ご冗談を。私はヴィエントの王家専属クラドール、そしてレオの婚約者。貴方もご存知のはずでしょう?」
「もちろん知ってるよ」

ユベール王子は何がそんなに面白いのか、クスクスと笑いながら続ける。

「紋章のことを気にしているのなら心配ないよ。別に最後の一線を越えなければ問題ないんでしょ?子供を産める女なら城にたくさんいる。それに、男女の楽しみ方はその“一線”だけじゃない」

リアはカッと身体が熱くなるのを感じた。怒りでグラスを持つ手が震える。

「私はそういうことを言っているのではありません!この城を、レオのそばを離れるつもりはありませんから。失礼します」

一気にそれだけ言うと、リアはガラス戸を勢いよく開けて会場に身体を滑り込ませた。

けれど――
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