風に恋して
「マルコおじさん、ありがとう」

マルコの執務室で、兵士たちのメニュー表を受け取ったリアはお礼を言った。リアを連れ出す口実として使っていたけれど、直したいと言っていたのは本当だったようだ。

リアの口調は砕けたものに変わり、呼び方も小さい頃からの癖で“マルコおじさん”に戻っている。マルコが父親のリベルトと仲が良いため、リアとの接点も多く、リアはマルコに懐いていた。

ただ、さすがに他の人の居る前でヴィエント軍の最高指揮官でもある大将を任せられている彼を“おじさん”と呼ぶことは憚られる。

「まったく何回目だ?ちゃんと断れって、言っているだろうに」
「……ごめんなさい」

リアは人見知りであまり親しくない者にはうまく自分の思いを伝えられないのだ。バレリオにも、今朝急に声を掛けられて……訓練が終わったら話があるから、訓練場の前で待っていて欲しいと言われた。今まで話をしたことはなかったと思うのだけれど。

マルコはため息をついた。

「リア、おいで」
「うん」

促されて、ソファに腰をおろしているマルコの隣にリアが座る。

「俺はお前の父親ではないけれど、少し心配だぞ?男が怖いか?」

リアは首を振る。確かに、男の人と話すのは女の人よりも気を遣ってしまう。だが、“男性”が怖いということではない。レオやセスト、マルコとは自然に話せる。付き合いが長いということもあるとは思うけれど。

「そんなことないよ。マルコおじさんにはこうやって自分のことも話せる。レオやセストさんにも」
「じゃあ、恋はしないのかい?」

恋……それは、どういうものなのだろう。
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