風に恋して
「お戯れが過ぎますよ。ユベール様」

ガチャリと客室のドアが開き、背の高い細身の男が部屋に入ってきた。長めの黒髪をきっちりとセットし、黒いスーツを着ている。眼鏡の奥の瞳は冷たい。その後ろにはセストも立っていた。

「クロヴィス……」

ユベール王子は舌打ちをして姿を元に戻し、剣を収めた。光が散っていく。レオも剣を床に置いて、クロヴィスがユベール王子に近づいていくのを見つめた。

クロヴィスはルミエール国王の側近だ。彼がここに来たということは、王のストップがかかったということ。

「これ以上は困りますね。今のルミエール王国にヴィエント王国との戦争をする余裕があるとお思いですか?」

眼鏡の奥、瞳が鋭く細められる。

「そりゃ、ないかもね?父上があんな小さい紛争にいちいち構うから」

ユベール王子が大げさにため息をついてみせた。クロヴィスはそれを冷ややかに見つめた後、レオに向き直った。

「申し訳ございません。私の監督不行き届きでございます。どうか、寛大な措置を……」

クロヴィスが深々と頭を下げ、今度はユベール王子がそれに冷ややかな視線を向けている。

「こちらに争う意思はない。速やかにルミエールへお帰りいただければそれで結構だ」
「感謝いたします」

レオの言葉にクロヴィスがもう1度頭を下げ、ユベール王子に厳しい視線を向けた。

「わかったよ。今日は帰る。それでいいんでしょ?」
「では参りましょう」

ユベール王子がまた舌打ちをして、部屋を出て行く。そのすぐ後にクロヴィスが続いていった。
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