黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
 
 
「…がッ!!、ァ……ッ……」



衝撃と同時に、自分の身体がくの字に折れた。

さらに一瞬、前傾姿勢のまま、全身が宙に持ち上がった。


……視線の先には、今当たったシートから茫然とこちらを見上げる、一瞬前のショートカットの女子生徒。

「…あ…ぁ……」

彼女はさっきよりもさらに瞳を大きく見開き、その表情からは恐怖と驚愕の様が、ありありと見てとれる。


…かく言う自分もおそらくは、彼女とはまた違った意味で、現在目を見開いているだろう。


「カハッ……ッ…!」


俺の口から嗚咽が一回漏れたところで、腹部にめり込んでいた、良雄の左拳の感触が消え去った。

その場に崩れ落ちそうになった俺は、悪いとは思いながらも、その女子が座っているシートの背もたれに、左腕をかける。

もたれかかる。


うなだれた視界に、さっき衝突したであろう座席の金属部分と、バスの灰色の床がゆらゆらと映り込んだ。


…腹部には、まるで何10kgもの鉄球でもぶら下げたかのような、酷すぎる鈍痛。

全身を支えきれなくなり、シートの背もたれから左腕がずり落ち、唯一の支えを失う。

そしていよいよ、中央通路へと前のめりに沈み込もうとしたその時、それは起きた。



……ガシ。



…誰かの、筋肉質で太い右腕が、倒れようとしていた俺の胸のあたりを支える。

見上げることもままならず、ただなされるがままになっている、自分の身体。
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