ジルとの対話
「さっきのケルベロスに聞いてみてくれ、アイツがリーダーだから。」
彼がリーダーだとは露ほども知らず、ジルは幾分不安になった。
「アランだ。良いやつだよ。」
「彼は何かやるのかい。」
恐る恐るジルが尋ねた。
「ベース。」
「帰ろっかな。」
ジルがそう言うと、キースの仲間が来た。
「この人誰?」
ロシア系の女性が、キースの肩に手を乗せて尋ねた。手には煙草を持っている。
「ジルだ、この間話した。」
キースが女性に言った。
「アンナだ。」
と、キース。
「初めまして。」
ジルが満面の笑みで握手すると、アンナは煙草をくわえて固い表情で笑った。
「君はキースの彼女かい。」
ジルが尋ねた。
「まあ、そうかな。あと、ドラムをやってる。」
「そうかい、それは凄い。でも、もう帰るんだよ。」
「そう言うなよ、聴いていけ。」
ジルの肩を掴んで、キースはジルにもたれかかった。
「そこら辺の男より私の方が上だよ。」
アンナがジルに訴えかけるように言った。
「聞きもしないで帰るなんて、女性差別なんじゃないの。」
「そうじゃないさ、差別なんてしてない。ただ、僕は場違いじないかなって思っただけさ。」
ジルが必死に否定するとキースには笑がこみ上げた。
「どんな演奏をするんだい。」
ジルがため息混じりに尋ねた。
「ハードコアとかいろいろ。」
アンナが答えた。
「ここで演奏する。」
キースが言って、店内へ導いた。
ジルは気を取り直して、席へついた。
客になって他人の演奏を見るなんていつ以来かと、ジルは胸を躍らせた。
キースはステージに立って練習をする。そのあいだに客はビールを飲んで、 談笑を交わしていた。本番とリハーサルを区別するために、ステージの照明は消されて、カウンターや、テーブル席にランプがついていた。
「違う曲やってよ!それはアメリカで聴いたから。」
ファンの声が聞こえた。
「アメリカでやっても、地元でやってないから、地元でやるのと、アメリカでやるのとでは、この曲の意味は変わるの。」
キースは丁寧に返した。
「どんな風に?」
ファンの1人が聞き返した。

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