魅惑のくちびる
10:秘密の時間

海沿いの駐車場に車を入れると、松原さんは自販機でウーロン茶を2つ買ってきた。


「松原さん、素敵だから。

こんなふうにデートしたり、気持ちを打ち明けられたなんて、会社の子に知れたら、わたし生きてられないかも。」

オレンジのキャップをひねりながら少し冗談めかしたけど、やっぱりぎこちなかった。

「わたし……本当に嬉しいと思ってるんです。

自分じゃ、何も取り柄もなくてトロイだけだと思ってるから、誰かが好きだと言ってくれることがなんだか申し訳ないくらいです。」

口にしたウーロン茶は、補充したばかりなのか、まだ十分温まっていなかった。


「自分の魅力なんて、わかんないもんさ。

璃音ちゃんだってオレのこと褒めてくれるけど、オレは自分でまったく良さがわかんないしね。」


エンジンを止めて窓を開けたら、波の音が静かに入ってきた。

心地よい空気。朝まで雨だったのが信じられない。

遠くの船を見つめながら、戸惑う気持ちを押し込め、意を決して切り出した。

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