secret name ~猫と私~
内心溜め息を吐く。

「お疲れさん。以上や。ありがとうな。」

武居に笑いかけられ、ほっとする。
こんな質問がまだ続いたら、いい加減イライラしそうだった。

「明日朝、わが社の社員を派遣します。」

朝からとは思わなかったが、とりあえずはいと返事をする。
見知らぬ人間と1日過ごすのは少し面倒だが、社長の好意を無下には出来ない。

「今の感じやと、期間は3ヶ月ぐらいやろか。」

「3ヶ月も!?」

「それに当たっての注意事項や。帰った時でええから、目え通しといてや。」

一週間ぐらいかと思っていた佳乃は、期間の長さに驚きを隠せない。
そんな彼女に笑いながら、武居は1枚の封書を渡し、水口と共に立ち上がった。

「何だ、もう帰るのか。」

社長が残念そうな声を上げた。
その様子から旧知のような雰囲気だ。
年も近そうだし、きっとそうなのだろう。

「ああ、ノーヴェを頼む。」

「こちらこそ。」

水口が隅っこの女性を見る。
ノーヴェと呼ばれた彼女は頭だけで一礼し、また作業に戻った。
綺麗な顔立ちなのに、無愛想でもったいない。

「相変わらずやな~。まぁ、怪我せんようにな。」

しゃべれないのかと疑うぐらいに声を発しないノーヴェは、武居の笑顔にも頷くだけだ。
そんな彼女に気を悪くした様子も無く、水口と武居は去っていった。

< 14 / 259 >

この作品をシェア

pagetop