matricaria
綾(あや)とは去年の丁度今くらいから喋るようになった。

喋り方が独特で、あまり周りから好かれそうなタイプではない、ちょっと陰気な人だった。

その頃は、ぎこちないながらも、わたしもクラスの女の子たちと一緒に学祭準備を(少し)楽しんでいたと思う。

でも学祭準備期間のある日。

綾が自分の仕事を忘れて帰ってしまったみたいで、クラスの人たちが綾を馬鹿にしたような会話をしていた。

・・・少し怖かった。

でもわたしにとっての本当の恐怖はその次の日。

普段と同じように朝のホームルームが終わる。

先生が教室を出ていき、今日も学祭準備が始まろうとしていた時。

「あのさぁ」

少しツリ目気味な背の高い女の子、多木(たき)さんが、綾に詰め寄った。

美人な人だとは思っていたけど、少し不良少女的なイメージがあって怖いと思っていた。

「昨日なんでサボったわけ?」

その言葉は自分に言われたわけではないのに、すごく嫌な予感がした。

「え・・・」

綾がうろたえる。

「え、じゃなくてさ」

周りにいる女の子も、男子も、みんなニヤニヤしていた。

みんな怖くて悪い顔だった。

「みんな準備頑張ってたのに一人だけとか」

「サボって・・・ない・・・」

「は?サボったじゃん」

「・・・・・・」

「なんか言ったら?謝るとかないわけ?」

「・・・・・・」

「は、もういいわ」

多木さんが言ってやったというように、ドラマの悪役みたいに翻り去っていく。

みんなクスクス笑ってる。

特に男子なんか、からかうような言葉を投げつけて。

一緒に学祭準備をしていた女の子たちも、みんな笑ってて。

そんな人たちと一緒にいるのが怖くなった。

この教室が怖くなった。

わたしは必要最低限しかクラスの人と喋らなくなった。

最低限の移動教室やグループ行動は、綾と綾の友達と一緒に行動したけど、綾は人のことをいっぱい悪く言うから正直苦手だった。

わたしは教室で空気になっていることが、一番楽だったんだ。
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