猫が好き!


 立っていると遙か上に見上げるシンヤの顔が、今は目の前にある。
 この人懐こい笑顔に騙されたのだ。
 けれど、この笑顔が好きだった。

 多分もう見納めだから、しっかり見ておこう。

 真純はシンヤをじっと見つめ返す。
 見つめるシンヤの顔が、次第に近付いて来た。

 身体を倒し、真純が座るソファの背もたれに両手をつく。
 真純はその両腕の間に閉じ込められた。

 息がかかるほどの距離に、迫ったシンヤが囁く。


「分かってくれるまで、何度でも言う。好きだよ、真純さん」


 シンヤは更に、距離を詰めてくる。

 顔をしっかり見ておきたいのに、あまりに近すぎて焦点が合わず、真純は目を閉じた。

 シンヤの唇が、真純の唇に重なる。

 こうなる事は分かっていて、目を閉じた。
 拒む気もなかった。

 シンヤに触れるのはこれが最後だから、忘れられない思い出が欲しかった。

 シンヤの優しく慈しむようなキスに、涙が溢れそうになる。

 少しして、シンヤの唇が離れた。

 真純は目を開き、けれど目を合わせないように俯いて、シンヤを両手で突き放した。


「出て行って」

< 105 / 354 >

この作品をシェア

pagetop