もっと愛してもいいですか
タイトル未編集
はじまり
最初に好きになったのは、ギターの弦をさらりと撫でる右手と力強く抑える左手。男にしてはちょっと白めの皮膚の下に堅そうな筋肉が適度に張っていて、いつまで見ていても飽きないほど好きなのだ。遠くから眺めているだけだったその男らしい手に触れたいと、触れてほしいと、ずっとずっと思っていた。
◆
帰りのSHRを早々に切り上げた担任が教室を出るより先に、俺、山門友姫は教室を飛び出した。教室から聞こえる「友姫ー、じゃあなー!」の声には「うん!」とだけ答えて廊下を走る。渡り廊下から別館へ渡ると、今度は階段を下りてまた走る。
「皇介先輩ー!」
走ると30秒ほどで着くその軽音部部室に駆け込んだ。部屋の奥にある黒い革張りのソファに皇介は腰かけて、赤いアコースティックギターを拭いていた。
「またSHRサボったんですかー?」
「うるせぇ」
「いっこ質問しただけなのに!ひどい!」
頭を抱えて、大げさにショックを受けながらソファに倒れこむと、ボスンと大きく揺れて皇介先輩の手元が狂う。手を止めて俺を睨むけど、ため息を吐いてまたすぐ作業に戻る。
「ため息吐くと、幸せ逃げちゃいますよ」
「誰のせいだよ」
「えー、俺ですかぁ?」