一月の花*君の体温
十一月、初雪

1.吐息





 セリちゃんとのお付き合いは、僕のささくれ立った心を少しは丸くしてくれた。
あちこち二人で遊びにも行ったし、僕は段々とカレンのことを考えなくなっていた。
いや…考えないようにしていた。

「んー、もうすぐ冬休みかぁ」

セリちゃんがぼんやりと呟いている。
お決まりのファーストフードの店内は、暖かくて冬の寒さを一時忘れさせてくれる。

「ね、冬休みどこいこう」

楽しそうに雑誌を眺めながら言うセリちゃんの横で、僕も同じ様に雑誌を覗き込む。
大抵こうして、他愛もない話をしながら時間が過ぎていく。
 そろそろ帰らないと、というセリちゃんと一緒に外に出ると、外はすっかり暗くなっていた。
もういつ雪が降ってもおかしくないような天気で、僕は思わず身震いした。

「さむーい」

「明日雪振るって」

「えー、やだー」

セリちゃんの手は暖かい。
二人で手を繋いで歩いていると、少しだけ僕の心も温かくなったような気がする。

「ケンくん」

セリちゃんのねだるような声に、僕は振り向くと、そっと唇に口付けた。
こうしてセリちゃんに触れるたび、僕の心はズキリと痛む。
僕はその痛みに背を向けるように歩き出す。

 「ケンちゃん…?」

正面から聞こえた声に、僕は思わず立ち止まった。
目の前にいたのは、暫くぶりに見るカレンの弟―…ユウだった。

「ユウ…」

「こんなところで何してんだよ…」

憔悴した様子のユウに、僕は思わず後ずさりした。
隣にいたセリちゃんが、訝しげな顔でユウを見ている。

「誰?」

「お前こそ誰だよ…」

ユウは怒っているのか、セリちゃんをにらみつけている。
僕は慌てて二人の間に入った。

「何、ユウ」

「…何、じゃないだろ…。姉ちゃんのことずっとほっといて…」

ユウは僕を見た後、セリちゃんに視線を移した。

「…そんで、アンタはそいつと楽しくやってたわけ?姉ちゃんが…どんな気持ちで…」

「……」

僕は何も言う事が出来ない。
逃げていたのは事実だし、忘れようとしていたことも事実だった。
 セリちゃんだけが、状況が飲み込めないのかおろおろと僕とユウを見比べている。

「あの…」

「…一応教えておく。姉ちゃん、明日手術だから」

ユウは諦めた様に溜息をつくと、それ以上突っかかってくることもなく去っていった。
僕は途方に暮れたように暫くユウの後姿を見送っていた。
 しばらくして、控え目に僕の服の裾が引っ張られた。
セリちゃんだ。

「…どういうこと?」

僕は小さな吐息を漏らすと、今しがた出てきたばかりのファーストフード店を振り返った。

「詳しく話すよ。多分…聞いていて楽しい話じゃないけど」

セリちゃんは、泣くかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら、僕は店の扉を開いた。



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